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大阪高等裁判所 昭和43年(ネ)467号 判決 1970年1月30日

控訴人 江藤工業株式会社

引受参加人 日亜化機工業株式会社

被控訴人 富士産業株式会社

主文

原判決中控訴人に関する部分を取り消す。

被控訴人の控訴人および引受参加人に対する請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、本件口頭弁論期日に出頭しないが、陳述したものとみなされた控訴状によると、「原判決中控訴人に関する部分を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、「本件控訴を棄却する。控訴人は被控訴人に対し別紙目録<省略>第三記載の物件を引き渡せ。引受参加人は被控訴人に対し別紙目録第一ないし第三記載の物件を引き渡せ。訴訟費用中引受参加以前のものは控訴人、その後のものは引受参加人の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、引受参加人は、「被控訴人の引受参加人に対する請求を棄却する。訴訟費用は被控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の主張と証拠関係は、つぎのとおり付加するほか原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

控訴人の主張

控訴人は、昭和三九年一二月倒産し、昭和四〇年七月ごろ城東社会保険金不払いにより別紙目録第一ないし第三記載の物件(以下第一ないし第三物件という。)は競売せられ、控訴人は右物件を占有していない。

被控訴人の主張

引受参加人は、昭和四一年三月九日ごろ第一ないし第三物件を控訴人から引渡しを受けて占有している。しかし、右物件は、被控訴人の所有に属する。よつて、被控訴人は、引受参加人に対し所有権に基づき引渡しを求める。

本件物件に関する引受参加人の単独占有は、昭和四三年一一月一九日からである。控訴人が昭和四〇年三月ころまで占有し、その後城東化学工業所が占有し、昭和四〇年一〇月二一日から昭和四三年一一月一九日までは執行官が占有していた。第一、第二物件が公売になり岩本相太郎が競落したことは認めるが、同人は引渡しを受けていない。

かりに引受参加人が本件物件を買い受けたとしても、城東化学工業所の共同経営者江藤ゆき江は、本件物件に関する被控訴人と控訴人間の譲渡担保契約についての連帯保証人であり、従つて右契約に基づいて右物件の所有権者が被控訴人であることは当然知つているはずである。さらにこれを譲り受けた引受参加人の共同代表取締役の一人は江藤彰宏である。してみると、引受参加人も当然右事実を知つているはずである。かりに右譲渡に際し、引受参加人が本件物件の所有者が右城東化学工業所であると誤信したとしても、通常の注意をすればそれを避けることができたはずである。したがつて引受参加人の即時取得の主張は要件を欠くものである。

控訴人は、第三物件を城東化学工業所こと江藤彰宏をして代理占有させている。

引受参加人の主張

被控訴人の主張事実のうち第一ないし第三物件を引受参加人が占有していることは認めるが、その余の事実は否認する。

控訴人は、社会保険料滞納のため城東社会保険事務所が第一、第二物件を公売処分にし、昭和四〇年四月二六日岩本相太郎が競落したが、同人より江藤彰宏が譲り受け、引受参加人は、昭和四一年三月一〇日江藤彰宏から右物件を第三物件およびその他の物件とともに代金二〇〇万円で買い受け同日引渡しを受けた。引受参加人は、控訴人から被控訴人のために譲渡担保が設定されていたことを知らなかつたので、本件物件が城東社会保険事務所によつて公売処分にされ競落人の岩本相太郎から江藤彰宏が買い受けたことをきき、江藤彰宏が現に公然と右物件を使用していたので、これを買い受けても大丈夫と信じて買い受け、その引渡しを受けたから、引受参加人は所有権を取得した。

証拠<省略>

理由

被控訴人は、当審において控訴人に対する第三物件の引渡請求を追加する旨申立てた。そこで、右請求の追加が許されるかどうかについて判断する。請求の追加が許されるには、まず請求の基礎に変更のないことを要する。ところで、右追加請求は、控訴人に対する関係では新しい請求であるが、原審において被控訴人は相被告城東化学工業所こと山添岩夫に対し所有権に基づき右物件の引渡請求をしていたことは記録により明らかである。しかし、当審において被控訴人は、山添岩夫に対する訴を取り下げたので、右訴は取下により終了している。そして新請求の請求原因たる所有権の取得原因は、従来の請求原因と同一の契約であることはその主張によつて明らかであるから、右訴の変更は、その請求の基礎に変更がないものというべきであり、また著しく訴訟手続を遅滞させるものとも認められないから、これを許すべきである。

そこで、控訴人に対する請求について判断する。控訴人は、原審において請求原因一、二の事実を自白したが、当審において被控訴人は、第一ないし第三物件は控訴人から引受参加人に占有が移転したことを主張しているのであるから、被控訴人は、控訴人がもはや右物件を占有していないことを自認しているものというべきである。そうすると、被控訴人の控訴人に対する請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないものとして棄却すべきである。

つぎに引受参加人に対する請求について判断する。

引受参加人日亜化機工業株式会社の代表取締役長谷栄と同江藤彰宏は、共同代表の定めがあることは記録により明らかである。ところで、当審における証人江藤ゆき江の証言、引受参加人代表者長谷栄の供述によると、江藤彰宏は、行方不明であることが認められる。共同代表の定めがある場合一人の代表者で訴訟行為をすることができるかどうか問題であるが、本件のように代表者の一人が住居所不明である場合相手方の訴に応訴する場合は、一人で民事訴訟法第五〇条第二項の行為を除くその他の訴訟行為をすることができると解するのが相当である。したがつて、代表取締役長谷栄のした訴訟行為は、引受参加人の行為として効力を生ずるものというべきである。

引受参加人は、前主の地位を承継するのであるから、参加前の弁論は、すべて引受参加人と被控訴人との間の訴訟について効力を有する。控訴人は、原審において被控訴人の請求原因一、二の事実を自白したので、この事実は引受参加人と被控訴人との間においても争いがないことになる。

引受参加人が第一ないし第三の物件を占有していることは、当事者間に争いがない。

第一、第二物件が昭和四〇年四月二六日控訴人の社会保険料滞納による公売処分によつて岩本相太郎に競落されたことは、当事者間に争いがない。しかし、控訴人が公売以前に右物件の所有権を被控訴人に移転していたことは、当事者間に争いがない以上、右公売によつて岩本相太郎は、控訴人から所有権を取得することはできない。もつとも即時取得によつて岩本相太郎がその所有権を取得することはできる。そこでその点について考える。当審証人大井勇、同江藤ゆき江の各証言によると、岩本相太郎は、公売による売却処分をうけたが、右第一、第二の物件の所在場所を移動することなく依然として控訴人の工場にそのままおいてあつたこと、そして江藤彰宏に右物件を譲渡したことが認められ、これに反する証拠はないから、岩本相太郎は、右物件について控訴人から占有改定による引渡しを受けたものというべきである。したがつて、岩本相太郎が平穏公然善意無過失に占有を始めたとしても、同人は現実の引渡しをうけていない以上これによりその所有権を取得することはできない。

当審における証人江藤ゆき江の証言、引受参加人代表者長谷栄の供述、右供述によつて真正に成立したものと認められる乙第二、三号証、成立に争いのない甲第七号証を総合すると、昭和四一年三月一〇日引受参加人は、江藤彰宏から第一ないし第三物件をその他の物件とともに代金二〇〇万円で買い受け、右物件の現実の引渡しを受けたこと、引受参加人は、城東社会保険事務所において第一、第二物件が公売に付され岩本相太郎が売却を受けたものであることを調査確認したうえで右物件を買い受けたこと、当時江藤彰宏が城東化学工業所名義で右物件を使用し占有していたこと、買受当時引受参加人の代表取締役は、長谷栄一人であつて、江藤彰宏は、昭和四一年八月三一日代表取締役に就任したこと、長谷栄は、右第一、第二物件が公売物件であるというのでそれを買い受けた江藤彰宏に第三物件をも含めて所有権があると信じて買い受けたことが認められ、当審証人大井勇の証言によると、被控訴人は、右物件についてその所有である旨を示す表示は何もしていなかつたことが認められ、他にこれに反する証拠はない。

以上の事実によると、引受参加人代表者が第一ないし第三物件を買い受けるについて江藤彰宏に所有権があると信じたことに過失はなかつたものといわなければならない。そうすると、江藤彰宏に所有権がなかつたとしても、引受参加人は、民法第一九二条の即時取得によつてこれらの物件の所有権を取得したものというべきである。

ところで成立に争いのない乙第一号証、甲第一五号証の一、二によると、第一ないし第三物件について昭和四〇年八月二五日飯尾治三から控訴人を債務者として差押がなされ、さらに鈴木潔子から昭和四〇年一〇月二一日控訴人に対する債務者名義に基づき差押がなされていたが、昭和四三年一一月一九日右差押が解除されたことが認められる。右差押により執行官は占有を取得するが、右占有は公法上の占有であり、私法上の占有は依然として債務者にあるものというべく、また差押によつて債務者は差押物件の処分を禁止されるが、この処分禁止は差押をした債権者と差押を受けた債務者との間で相対的にのみ生ずる効力である。したがつて、差押中であつても、右差押物件の私法上の占有の移転ができないということはないし、右差押は解除になつたのであるから、右占有の移転は無効ということはできない。

そうすると、引受参加人は、第一ないし第三物件の所有権を即時取得により取得したものであるから、被控訴人の請求は理由がないから棄却すべきである。

よつて、これと異なる原判決は失当であるから民事訴訟法第三八六条によりこれを取り消し、控訴人に対する請求を棄却し、引受参加人に対する請求を棄却することとし、民事訴訟法第九六条、第八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡野幸之助 宮本勝美 菊地博)

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